施術をしていると、体が整っているのに気持ちが落ち着かない方に出会うことがある。呼吸も姿勢も悪くないのに、どこかが引っかかっているような感覚。そういう時、僕は腕の外側をそっと触ってみる。肘の外側あたり、手の三里から少し下――そこにあるのが上肢第四調律点だ。
この部分は、情緒と呼吸の通り道。柔らかいときは腕に温かさがあり、気持ちも軽い。けれど詰まると、呼吸が浅くなり、体の中で“言葉にならない感情”が滞っていく。心を抑えたまま我慢してきた人ほど、ここが固くなる。
少し前、僕自身も同じような状態になった。頭では切り替えたつもりでも、どうしても手放せない出来事があった。考えないようにしても思い出す。そんな時期は決まって右腕の外側が張って、手が動いても感覚が鈍かった。
その時、自分で施術を行い、軽く腕を回しながら、手の三里の少し下をじっくりと緩めていく。呼吸を吐くたびに腕が温まり、胸の奥まで呼吸が届いていく。何日か続けるうちに、体だけでなく、頭の中の“思い返す癖”が静かになった。
上肢第四調律点が詰まると、肩や首のこり、腕のだるさ、頭痛、背中の張りなどが出やすい。さらにこのラインは大腸経に沿うため、消化器にも影響する。胃もたれや便秘、食欲の波、胸のつかえ。体の“消化”と心の“消化”はつながっている。
皆さんの場合は、ひじ湯がいちばん簡単で安全だと思う。熱めのお湯に肘を浸けて、呼吸を吐きながら腕を温める。時間にすれば数分でも、気の流れが変わる。湯上がりに軽く腕を回すと、自然に肩までゆるんでいく。
上肢第四調律点を整えるというのは、筋肉をゆるめることではなく、感じる力を取り戻すことだ。執着が手放せない時、それは心の問題というより、流れが腕で止まっているだけかもしれない。流れが戻れば、気持ちは自然に動き出す。
