大正12年、関東大震災が起きた。
その被害は凄惨なもので、辺り一面が焼け野原になったと聞く。
その時、苦しんでいる人たちに、ただただ手を当てていた12歳の少年がいた。
野口晴哉である。
後に野口整体を築いた人物だ。
今では『整体』という名前が随分と広まったが、その中身は実にさまざまだ。
自分が学んできた整体の源流にいるのが、この野口晴哉である。
まあ、当時は手を当てていたというより、何も手立てがなく、手を当てるしかなかったという話もある。
ところが、手を当ててもらった人たちが次々と楽になったという。
近所の煮豆屋のおばさんが「あの子のところへ行くと楽になる」と評判を広め、次々と人が訪れるようになったそうだ。
そうしているうちに「その格好ではいけない」と袴をもらい、袴姿で施術をするようになったという。
これが、整体におけるトラディショナルスタイルとなったわけだ。
野口整体では、布団を敷いて施術をする。
背骨を観るために、申し訳ないが、身体を跨がせていただくこともある。
そして、着物に袴である。
以前は白衣にスラックスという格好で施術をしていた。
だが、今の店舗を見つけた時に、それが変わった。
開業するにあたって随分と多くの物件を探したが、整体をするならここしかないと思った。
そうなると、白衣にスラックスではどうにも似合わない。
そこで、思い切って着物と袴にしてみることにした。
それまで着物も袴も着たことがない。
着方も分からなければ、動き方も分からない。
まさにぶっつけ本番である。
まあ正直、野口晴哉への憧れもあった。
そういえば、木村拓哉に憧れてデニムのセットアップも着ている。
そんなつもりはなかったが、案外かぶれやすい性分なのかもしれない。
ところが、実際に着て施術をしてみると、これが案外動きやすい。
正しい動きや型で施術を行っていれば、自然と身体が動いてくれる。
昔からこの格好で施術をしてきたのも、理にかなっているからなのかもしれない。
いらっしゃる方の中には、
「本当に着物で施術するんですね?」
と言われる方がいる。
不思議なことに、そういう方は大概すぐに来なくなる。
もしかすると、そこまで身体に困っていないのかもしれない。
あるいは、こんな格好の人間に身体を任せるのが不安なのかもしれない。
まあ、こちらが時代錯誤なのだろう。
それは重々承知して始めたつもりだが、周りを見渡しても、こんな格好で整体をしている人なんていないし。
もしかすると、コンセプト整体か何かだと思われているのだろうか。
いっそのこと、コンカフェよろしく、オリシャンとチェキでも用意しておくと良いのかもしれない。