「骨盤は強固な靱帯や筋肉に支えられていて、人の手で動かせるものではない。もし動くのであれば骨折レベルの話だ」
そんな話を、ある動画で聞いた。
なるほど。どうやら僕は、毎日のように骨盤を骨折させているらしい。
何とも物騒な整体院である。
しかも、医学では骨盤について勉強しない、意味がないからだ、という趣旨の話まで出てきた。
いや、さすがにそれはどうなのだろう。
そもそも、骨盤にある仙腸関節は、まったく動かない関節ではない。
2024年に発表された医学的なガイドラインでも、通常の動きは回旋がおおむね2〜3度以内、平行移動が2mm以内とされている。
確かに大きく動く関節ではない。しかし、大きく動かないことと、まったく動かないことは別の話だ。
そもそも、骨盤矯正とは何をすることなのだろうか。
骨盤の骨を直接つかみ、力ずくで正しい位置へ動かす。そんなことを想像しているのかもしれない。
実際、骨そのものに操作を加えることもあるが、普段の施術では筋肉や周辺組織の緊張を調整することがほとんどだ。
例えば、太ももの外側にある腸脛靱帯の周辺を調整すると、骨盤の傾きや触れたときの感覚が変化することがある。
ほかにも、外くるぶしを上方へ誘導するように足首を操作すると、同じ側の骨盤が上がってくるような変化を感じることがある。
骨盤には一切触れていない。
それでも、骨盤の状態に変化が現れるのだから面白い。
では、その変化をどのように確認しているのか。
上前腸骨棘と上後腸骨棘という、骨盤の前後にある骨の目印を触る。
何とも長ったらしい名前だが、この位置関係から骨盤の傾きや左右差を観ている。
それと、上前腸骨棘の内側の筋肉に力がついているかどうかも重要だ。
そこにしっかりとした手応えが現れた状態を、僕は「骨盤が締まった」と捉えている。
骨盤の高さや傾きだけでなく、こうした触れたときの感覚も含めて判断しているのだ。
ちなみに、足の長さで骨盤の左右差を判断する方法がある。
仰向けやうつ伏せで寝てもらい、左右の足の長さを比べるというものだ。
だが、骨盤を観たいのに、なぜわざわざ足先まで行って判断するのだろうか。
骨盤から足先までには、股関節、膝、足首など、いくつもの関節がある。
それぞれの関節の角度や身体の緊張によって、足先の位置などいくらでも変わってしまう。
それだけ誤差の入り込む余地があるのだから、足の長さだけで骨盤の左右差を決めるのは、何ともまどろっこしい。
骨盤を観たいのであれば、骨盤を観ればいいではないか。
ただ、触れた感覚が変わったからといって、仙腸関節の内部で骨が何ミリ動いたのかまでわかるわけではない。
指先にレントゲンが付いているわけではないのだから。
それでも、施術によって触れた感覚や身体の動きが変わることはある。
その変化が何によって起きているのか、まだ説明しきれない部分もあるのだろう。
だが、説明できないことと、変化が起きていないことは別の話だ。
骨盤の骨を力ずくで大きく動かすことと、周辺の緊張を調整することで骨盤の姿勢が変化することは、そもそも別の話ではないだろうか。
理屈に身体を合わせるより、身体に起きていることから理屈を考える。
そうやって身体を観ている人間からすると、骨盤矯正などあり得ないと一言で片づけられるのは、何とも腑に落ちない。
明日またここへ来てください。本物の骨盤矯正を受けさせてあげますよ、とでも言いたくなる。